2013年5月17日金曜日

福山競馬の歩み刻む


 3月末に廃止された福山競馬(福山市)の歴史を残し、戦後復興を支えた競馬文化と技術を次世代に伝えようと、元馬主会を中心に、所属していた騎手や調教師らが5月中にも「福山競馬を語り継ぐ会(仮称)」を設立する。記録文書や馬具など資料の収集、保管などを行う。地方競馬全国協会(東京都)によると、廃止後に関係者が組織的に記録の保存に取り組むケースは例がないという。企画した元県馬主会長の岡田義見さん(65)は「福山競馬の歩んだ60年を、人々の心に永遠に刻みたい」と話す。
 地方競馬は畜産振興や地方自治体の財源となり、基盤整備や雇用などに貢献してきた。同協会によると、地方競馬の経営は厳しく、平成に入って14か所が廃止に追い込まれた。開催中の地方競馬場に設けられた展示スペースで資料が紹介されているケースもあるが、廃止後は、大半が散逸してしまう。
 同競馬場でも最終レース日に、勝負服や蹄鉄など大量の競馬グッズが格安でファンに販売されたなど、<処分>が進む。岡田さんは「このままでは競馬が歩んできた歴史が消えてしまう」と「語り継ぐ会」の設立を関係者らに呼びかけ、約300人で発足する見通しという。
 会では、市民や関係者から資料の提供を募る。1949年の開設時から約20年騎手を務めた寺田忠さん(83)は、自宅に保管しているはみや鞍(くら)などの馬具や、鞭(むち)、ヘルメットなど騎手用具を寄付する予定。50年前の馬具もあるという。
 また、かつて「アラブの聖地」と呼ばれた福山競馬場で、アラブ馬のモナクカバキチが地方競馬最多勝を達成した時の記念グッズや、最後のアラブ馬として活躍したレッツゴーカップの馬具、ゼッケンなども保存される予定。
 他競馬場に移籍した福山競馬の騎手や競走馬の応援ツアーなども行う予定だ。会の趣旨に賛同する市民など誰でも入会でき、全国に散らばった福山競馬場関係者にも参加を呼びかける。
 立川健治・富山大教授(競馬史)は「資料は、競馬文化を研究する時に貴重。残せるものは何でも残すべきだ。できれば展示もしてほしい。会員のネットワークを生かし、異業種に再就職した関係者の競馬界復帰につなげ、伝統と技術を守ってほしい」と期待する。(読売新聞)
【写真】現役時代に使った馬具を手に「競馬文化を後世に伝えたい」と話す寺田さん(福山市千代田町で)

2013年5月14日火曜日

廃止福山競馬の騎手と調教師 佐賀競馬で再起

「佐賀で頑張りたい」と意気込む柳井さん(左)と渡辺さん

 3月末で廃止された福山競馬(広島県福山市)に所属していた騎手の渡辺博文さん(46)と調教師の柳井宏之さん(38)が、今年度から九州唯一の地方競馬の佐賀競馬(鳥栖市)に移籍した。
 2人は、「いいレースで盛り上げたい」と意気込んでいる。
 大阪府岸和田市出身の渡辺さんは、兄が福山競馬で騎手をしていたため、自分も志し、1986年に19歳でデビュー。その後、同競馬に在籍中、通算で2241勝を記録した。
 一方、福山市出身の柳井さんも、父が競馬好きだったことなどから、17歳で騎手となった。2007年に騎手を引退し、調教師に転向。騎手時代に先輩後輩として仲が良かったため、渡辺さんは、同年から柳井さん厩舎に所属した。柳井さんは、調教師として111勝を挙げた。
 しかし、福山競馬の経営状況は次第に悪化し、昨年度限りで廃止され、中国地方から地方競馬の灯は消えた。渡辺さんは、「経営が悪いのは知っていたが、ショックだった」と振り返る。
 3月24日に行われた同競馬の最終レース後のセレモニーには、たくさんの観客が詰めかけたという。その光景を見た柳井さんは、「もっとファンサービスに力を入れていれば、存続できたかもしれない」と感じた。同競馬に所属していた騎手の3分の1ほどは、廃止を機に廃業したという。
 そうした中で、2人は佐賀競馬へ移籍する道を選んだ。渡辺さんは4月13日に同競馬でデビュー。柳井さんが調教を担当した馬も、同29日に初めてレースを走った。
 新しい馬場は福山に比べて広く、まだ十分に慣れてはいないが、競馬にかける熱意は以前と同じだ。渡辺さんは、「とにかくレースに勝つことにこだわり、現役であり続けたい」と言い切る。柳井さんも、「調教師として5年が過ぎ、ようやく面白さが分かってきた。勝てる馬をどんどん育てたい」と語り、新天地での活躍を期している。(読売新聞)

2013年5月11日土曜日

競馬法改正「テラ銭操作OK」はパンドラの箱か…ますます開く中央・地方格差の“皮肉”


テラ銭アップか、それとも…。存廃でゆれる名古屋競馬

 昨年の競馬法改正によって、主催者が払戻率を加減できるようになった。増収に直結する「テラ銭」(配当の中から一定の割合で主催側が受け取る金)アップOKという画期的な改正なのだが、赤字に苦しむ地方競馬サイドの反応は意外に鈍い。払戻率ダウンで客が来なくなってはと及び腰なのだ。貧すれば…か。逆に経営が盤石なJRAは機敏に反応し、さらなる増収へ意欲満々だ。

JRAはテラ銭操作へ意欲

 日本中央競馬会(JRA)は先ごろ、定例記者会見の席上で馬券種別ごとに払戻率の変えることを検討している-と明らかにした。現在の払い戻し率はおおむね75%。これを馬券によって70~80%まで動かすことを考えているという。この場合の「検討」は決定とほぼ同義だろう。定例会見で公表したことを覆した前例はほとんどないから。近いうちに実施になるはずだ。
 「外国では当たりにくいものは(払戻率が)低く、当たりやすいものは高くなっている」という担当理事のコメントを素直に解釈すれば、JRAでも払戻率は的中率の低いWIN5や3連単で下げ(払戻金ダウン=テラ銭アップ)、逆に的中率の高い単勝、複勝は上げる(払戻金アップ=テラ銭ダウン)ことになりそう。緩急をつけることでファンの購買欲を刺激しようというわけだ。
 もう少し詳しく言うと、現在は、ファンが売り場やネットで馬券を買った瞬間に胴元=JRAによって25%の「テラ銭」がさっぴかれている。もちろん、それが必要経費や賞金などに当てられるわけだが、25%というのは諸外国に比べてけっこう高い。実はそこまで高率でなくても競馬は開催可能である。
 今回のように5%テラ銭をダウンさせても問題ないのだ。種別によって30%までアップさせれば、全体の帳尻も合う。

画期的な競馬法改正だったが

 ギャンブル御法度の風潮の日本で、中央・地方競馬が例外的に存在を認められている根拠は競馬法だ。そこに定められた算式に基づき「払戻率75%」が決められてきた。その競馬法が昨年6月、一部改正。主催者の裁量で70~80%の範囲内で自由に設定できるようになった。
 今回のJRAの動きはこの改正によるものだ。
 もっとも、法改正は黒字JRAではなく、赤字の地方競馬を救済するための動きだった。各地で相次いでいる地方競馬の廃止の流れにストップをかけようという国の援助の手。払戻率を下げる=つまりテラ銭をアップさせれば、同じ売り上げでも実入りが多くなり、経営がラクになるだろうというわけ。
 それに対してまっさきにJRAが食いついて、テラ銭ダウンで購買欲を刺激するという逆パターンの振興策を切り出してきたのは皮肉ではあるが。

地方競馬の反応は鈍く

 では、本来のターゲットである地方競馬はどんな動きを見せているか?
 名古屋競馬(名古屋市港区)は累積赤字40億円超。岐阜県(笠松競馬)と連携して番組を運営しており、ファン数も多く、他地方の競馬に比べるとまだ体力はある方だが、愛知県、名古屋市などの主催者サイドは、ずいぶん前から存廃を論議してきた。というより、なるべく早く廃止したいという意思をあからさまにしてきた。
 先ごろ行われた経営改革委員会でも「今年度中の黒字が存続の最低条件」などと高いハードルを課した。それに対して、競馬組合側は「来年度から払戻率を現行75%から70%へ下げれば4億5600万円の黒字に転換し、5年で15億円の黒字が見込まれる」との試算を示し、存続を訴えた。
 競馬法改正を“正しく”利用したまっとうな意見に思われるのだが、委員会は「払戻率の引き下げに頼らず、経費節減の徹底で黒字化を」とニベもなかった。
 同競馬の売り上げは約150億円(2011年度)。単純計算でテラ銭25%なら約38億円の実入り、同30%にアップすれば約45億円へ収入増だ。十分に経営改善の切り札になるだろう。
 もっとも経営改革委員会の言い分に根拠はなくもない。組合の試算はテラ銭アップでも客足は衰えない(前年度比98%)という楽観的見込みに立脚していた。これに対して、委員会側は配当金が減ればファン離れが進んで、売り上げそのものが減るという悲観的な見方をとっている。
 急速にファンが離れている現在の地方競馬の惨状を考えれば、悲観的な方が正しい道が見えるかもしれない。つまるところ、競馬法の改正も地方競馬救済の切り札にはなり得なかったということなのか。
 では、冒頭のJRAはどうか? あちらはいかに売り上げ減とはいえ、先週のNHKマイルCでも入場者数は6万人を超えたようにファン離れとまではいかない。法改正による払戻率引き下げでさらなるファン呼び込みも不可能じゃないだろう。黒字JRAはますます栄え、赤字の地方は…。格差社会とはいいながら、もの悲しい結論だが。(産経ニュース)